セミナーレポート
UIUXデザイナーの
キャリアの出発点

公開 2023.2.10
去る2022年10月20日(木)、アンカーデザイン株式会社の大倉慶子氏をゲストに迎え、「UIUXデザイナーのキャリアの出発点」と題したセミナーが開催された。
キャリアアップの手段としてポピュラーなものとなった“転職”。しかし、日頃業務をこなすなかで転職活動の準備をするのは簡単なことではないだろう。そこで、今回は大倉氏が実際にどのようにしてキャリアチェンジに臨んだのかなど、セミナーを通じて語られた。
講師プロフィール

- 大倉 慶子(KEIKO OKURA)
- アンカーデザイン株式会社 サービスデザイナー
ディレクター兼デザイナー -
東京都出身イギリス在住。明治大学理工学部応用化学科卒業。
The Glasgow School of ArtにてDesign Innovation and Service Design修了。学生時代にアメリカへの交換留学を経験後に、新卒で専門商社に入社。その後、株式会社マイナビにて新卒媒体営業、事業推進を経験。正社員として働く傍ら独学でデザインを勉強し、2020年にUIUXデザイナーに転身。2021年に留学のためにイギリスに移住。
営業からデザイナーへのキャリアチェンジ
セミナーは大倉氏のキャリア遍歴から始まった。理系出身の大倉氏は、新卒で産業機械の専門商社に入社。その後、「より提案力を求められる営業をしたい」と株式会社マイナビに転職し、新卒媒体の法人営業や事業推進に携わる。大学卒業以来、ずっと営業畑で働いてきた大倉氏は、なぜデザインの仕事にキャリアチェンジしたのだろうか。
大倉氏:私はクライアントの本質的な課題を見いだして提案することに面白みを感じていました。営業として数字を求められるなかで、「課題解決をメインにできる仕事はないだろうか」と考えた末にたどり着いたのが、UIUXデザイナーでした。いつか海外で働きたいと思っていたので、国内外問わずスキルが活かせる仕事であることも魅力でしたね。

大倉氏は独学でデザインを学び、2020年3月にアンカーデザイン株式会社にサービスデザイナーとして入社。UIUXデザインをメインに、営業やPR戦略など幅広く業務に携わっている。2021年9月からの1年間はグラスゴー芸術大学に留学しており、セミナー当日もイギリスからオンラインでの参加となった。
営業からデザイナーへのキャリアチェンジは、簡単なものではない。大倉氏は「キャリアチェンジで苦労したところ」を3つ挙げて説明した。
1つめは「フルタイムで働きながらのデザインの勉強」。大倉氏は学生時代を含め、デザインのバックグラウンドがまったくなかったという。もちろんデザイン業務の実績はなく、ツールの使い方をゼロから学ばねばならなかった。
大倉氏:会社は辞めずに、毎日仕事が終わったあとに独学でデザインの勉強をしていました。「週10時間勉強する」と決めて、アメリカのオンラインコースで半年間、リサーチや設計、プロトタイピングなどをひと通り学びました。自分で決めたこととはいえ、結構大変でしたね。

2つめは「職種タイトルと仕事内容のギャップ」。UIUXデザイナーを目指していた大倉氏だが、「UIUXデザイナー」の求人をよく見てみると、仕事内容はWebデザイナーと同等であることもよくあったという。自分が思い描くUIUXデザイナーの仕事を見つけるには、求人内容をよく見極めなくてはならなかった。
最後は「カルチャーフィットする会社を探すこと」。どんなに仕事が好きでも、会社のカルチャーが肌に合わなければ働き続けることは難しい。大倉氏は海外で働くことも考えていたため、外資系企業やインターナショナルなスタートアップに応募し、「海外志向がある人を好意的に捉えてくれる会社」を探すようにしたという。
未経験の状態からデザインの知識を身に付け、働きたい職種と会社の姿を明確にした大倉氏。さらにセミナーの後半では、内定を得るために行った準備について語った。
キャリアを棚卸しして、自分の「強み」を見つける
UIUXデザイナーの内定に向け、大倉氏は自分自身のキャリアを棚卸ししたという。「やりたいこと」「できること」「求められること」の3つを掘り下げ、この3つを満たせる仕事を探すようにした。
大倉氏:「やりたいこと」は、海外でも通用するUIUXデザイナーになること。そして「できること」として、営業経験をベースにしたコミュニケーション力や、人材業界で培った人への興味・観察力などがアピールできると考えました。「求められること」については会社によって変わると思いますが、継続してスキルを磨くこと、お客様との折衝能力などは共通して求められるのではないでしょうか。

独学でデザインを学んだとはいえ、ほかの求職者とデザイン力で勝負しても差を付けることは難しい。そこで、営業経験や英語、海外のオンラインコースで学んだことを「強み」としてアピールすることにした。職務経歴書にはこれまでの実績を載せ、UIUXデザイナーにも通じる「課題発見」「提案力」を自己PRに書いた。
また、ポートフォリオは「結果だけでなく、プロセスをしっかり見せる」ことを意識して制作したという。
大倉氏:面接では「なぜそのデザインにしたんですか?」と必ず聞かれます。自分のデザインを説明できること、そして、それがユーザー目線に立ったものであることがとても大事です。ですので、ポートフォリオでは完成図だけではなく、「このサイトはどういう構成で作られているか」「ユーザーがどういうフローで使うことを想定しているか」など、デザインに至るまでのプロセスがわかるように作りました。

ポートフォリオは成果物のクオリティだけでなく、「提案力」も求められる。大倉氏は、ポートフォリオを見る立場の人のことも考えて構成したと話す。
大倉氏:人事の方はお忙しいので、ポートフォリオに隅から隅まで目を通せるとは限りません。パッと見てどういうものが書いてあるかわかるように、前半にプロジェクトの概要を全部まとめるようにしました。自分の役割や、リサーチ手法、苦労したところなどを最初にまとめて、あとはフェーズごとに成果物を載せています。プロジェクトの数も「これなら自分をアピールできる」という2~3個に絞りました。
得意が活かせる仕事なら、未経験でも苦にならない
実際にキャリアチェンジをしてみて、大倉氏は「毎日が学び」だと話す。本やセミナーなどで学ぶことはとても楽しく、一つひとつの案件が異なるからこそ毎回新しい発見があるという。
大倉氏:まったく馴染みのない業界の案件などは、新たにインプットすることも多くなるのですが、デザインプロセスそのものがとても好きなのであまり苦になりませんね。やはり自分がやりたいこと、得意なことが活かせる仕事はとても楽しいです。今の会社で海外に行くきっかけもつかめたので、本当にキャリアチェンジをしてよかったと思っています。
最後に大倉氏は本日のまとめとして、3つのポイントを挙げた。
- ・プロセスを見せたポートフォリオ
- ・UI/UXデザインを学んでいる姿勢を見せる
- ・UI/UXデザイナーになっても活かせる強みを見せる
未経験だからこそ、「学んでいる姿勢」や「活かせる強み」をアピールすることが重要になる。そしてそれを裏づけるのが「プロセスを見せたポートフォリオ」だ。
大倉氏:業務実績がなくても、自分でリサーチやインタビューをしてみましたとか、架空のプロジェクトでUI改善をしてみましたとか、とにかく自分でやってみることが大切です。自分でやってみたからこそ、プロセスをしっかり説明することができます。デザイン実務が未経験だとしても、なんらかの強みは絶対にあるはず。これまでの経験から何が活かせるかを見極めて、しっかりアピールすることが、キャリアチェンジを成功に導く鍵になると思います。
セミナーは参加者の質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。
- UIデザインについてはイメージできるのですが、UXデザインの具体的な進め方についてイメージがあまり湧きません。
1つのプロジェクトにつき、どのような期間でどういった業務をされるのでしょうか。 - リサーチによってニーズを見いだし、プロダクトの方向性を考えます。
UXデザインは、ユーザーがサービスやプロダクトを使うことによって得られる「経験」をデザインすることです。ユーザーに実際に話を聞くため、リサーチだけでも1ヵ月~3ヵ月くらいの時間をかけます。インタビューの内容を設計して、実際に話を聞き、内容をまとめて分析すると、「こういう人がこう言ってるということは、実はこういうニーズがある」というのが見えてきます。ワークショップでのアイデア創出や、プロトタイピング、ユーザーテストもUXデザイナーの仕事です。 - デザインを独学で勉強されたというお話でしたが、オンラインコースはどのような点を重視して選んだのでしょうか?
- 内容に加え「わからないことを聞ける相手」がいることも重視しました。
私が受講したコースは、デザインプロセスを最初から最後まで通して経験し、最後にポートフォリオまで作成するものでした。ゼロから学ぶことになるので、ひと通り網羅できるコースを選ぼう、というのはありましたね。コースではメンターも付いており、わからないことをすぐに質問できたのがとても助かりました。YouTubeなどにもたくさん情報があるので、自分1人で勉強するのも悪くありませんが、私自身は投資してよかったと感じています。 - 営業からの転職を検討しています。面接の際、気をつけていたことや、回答に困った質問はありましたか。
- デザイナーと営業の「接点」を意識しました。
最初のうちは営業経験について話しても「それがデザイナーにどう繋がるの?」と疑問を持たれることも多かったんです。「お客さんの話を聞くときは相手の立場で考えてこういう提案をしていました」「UIUXデザインはお客さんへの提案も大切だと思うので営業スキルが活かせます」など、デザイナーと営業の経験をどう繋ぐかを意識するようにしました。
編集部より - セミナーを終えて
デザイン業務未経験でありながら、営業からUIUXデザイナーという大きなキャリアチェンジを果たした大倉氏。会社に勤めながら、オンラインコースで半年間学ぶといった入念な準備をし、営業経験から活かせるスキルをアピールしたという。未経験の分野とはいえ、過去の経験がまったく無駄になるかと言えばそうではない。キャリアの棚卸しなどで活かせる部分を見つけながら、さらにインプットを重ねることで、新しい自分を作り上げていったのだろう。「学ぶことが楽しい」と語る姿からも、知らない領域に一歩踏み出すことの大切さを感じ取ることができた。
これからも、さまざまなゲストが登壇し、転職やキャリア形成を考えるうえで有益な情報を発信していく。ぜひ今後のセミナー内容にも期待してほしい。