セミナーレポート

デザイナー・ディレクター必見!“良いデザイン”を生むディレクション術

公開 

去る2025年1月21日(火)、オンラインセミナー「デザイナー・ディレクター必見!“良いデザイン”を生むディレクション術」が開催された。

ディレクターやデザイナーからの「ディレクションができるようになりたい」という要望を受け、今回は良いデザインを生むディレクション術についてセミナーを開催。UXデザイナーとして活躍するタグチマリコ氏をゲストに迎え、プロジェクトを円滑に進めるディレクションについてお話していただいた。

講師プロフィール

タグチ マリコ(MARIKO TAGUCHI)
UXデザイナー / クリエイティブストラテジスト / HCD-Net認定 人間中心設計専門家
1994年東京都生まれ。高校在学中にデザイナーとして活動をはじめ、複数の制作会社・開発会社にて、広告・Web・アプリケーション開発のプレイヤーからマネージャー・経営者を経験。現在は、UXデザイン・人間中心設計(HCD)を起点としたサービスデザイン、ブランドデザイン、プロトタイピング・調査分析、UI・ビジュアルデザイン・イラスト、企業顧問・人材育成・コミュニティデザインなど、表層デザインから哲学まで、多角的にデザイン行為の在野研究をつづけている。

ディレクションとは、プロジェクト全体をデザインすること

まずタグチ氏が投げかけたのは「ディレクションとは何か」という問いだった。ディレクターとは、進行管理と指示出しだけをする存在ではなく、クライアントやデザイナーに言われたことを伝えるだけの「伝書鳩」でもない。大切なのは「プロジェクト全体をデザインすること」だとタグチ氏は話す。

タグチ氏:プロジェクト自体が円滑に進むことを意識して、チームやステークホルダーが同じビジョンを共有できるように導くことが、ディレクターの仕事だと思っています。それには「目的・背景・コンテクスト」の3つを形にすることが欠かせません。

ディレクションとは何か

しかし、プロジェクトには不確定なことや、曖昧なことも多い。たとえば、「仕様がなかなか決まらない」という事態に、ディレクターはどう対処したらいいだろうか。

タグチ氏:要件が曖昧なときこそ、私はチャンスだと思っています。仕様が決まるまで待つのではなく、こちらから提案をして、一緒に決めるんです。要件が曖昧だということは、余白が多く残っていて、アイデアの自由度も高いということ。要求整理やユーザーインタビューなどを通じて、何を作るべきかを整理しましょう。

ただ注意すべきなのは、クライアント自身が発注に慣れていない可能性もあること。依頼自体が曖昧な場合、「コンテクスト(文脈)」を捉え、全体像を見ることが大事だとタグチ氏は話す。「LPを作りたい」という依頼があったとしても、「なぜLPを作りたいのか」「このサービスを開発する目的は何か」などを掘り下げると、そもそもLP以外の施策が有効な場合もある。

タグチ氏:私はサービスが必要とされている社会背景や、依頼主の立場、チームメンバーのバックグラウンドなどにも意識を向けるようにしています。ディレクターの皆さんには、「もっといいものが作れるかもしれない」という観点で、全体像を見てもらえたらと思います。

曖昧さの向き合いかた

ディレクションはディレクターだけのものではない

タグチ氏は「ディレクションはディレクターだけのものではない」と話す。いいものを作るためには、メンバー全員がプロジェクトのゴールを意識するべきだ。ディレクター1人に管理を依存せず、いわば「全員参加型ディレクション」であることが理想だという。

タグチ氏:全員参加型ディレクションを実現するには、全員がいつでもゴールを確認できる状態を作ることが必要です。さらに、オープンに意見を出し合える、困ったときに相談がしやすいといった環境も大切でしょう。そもそもチームが破綻していては、“いいデザイン”は成立しませんから。

全員参加型ディレクション

セミナーの後半で、タグチ氏は実際に業務で使ったFigmaの資料を映しながら、実践的なディレクション手法について解説をした。

ペルソナやワイヤーフレーム、機能概要やユースケースなど

最初に投影されたのは、採用系のアプリケーションを設計した際の資料。ペルソナやワイヤーフレーム、機能概要やユースケースなどが1ヵ所にまとまっている。ユーザーインタビューを行ったあと、たたき台として作成したものだという。

タグチ氏:ポイントは、営業の方もエンジニアの方もわかるように書いているところです。クライアントが関西の企業だったので、イメージを沸かせやすくするためにターゲットを同じく関西の企業で例えました。この資料を元に、どういった機能が必要かといった会話をしています。全員で議論できるようなたたき台を作ることが、ディレクターとして必要な仕事だと思っています。

より細かいユーザー分析をするときは、KA法と呼ばれる分析手法を用いている。ユーザーインタビュー一つひとつに対し、「出来事」「ユーザーの心の声」「期待した価値」をまとめ、共通するものをマッピングする。これにより、ユーザーがある出来事に対して、どんな意思決定をするのかを示す「価値マップ」ができあがる。タグチ氏はこれを、“心の地図”と呼んでいるという。

資格試験を受ける人のモチベーションの価値マップ

さらに、タグチ氏はKA法を発展させた独自のマップも作っている。下の資料は、新たなCRMプロダクトの開発を検討するクライアントに対して、社内のコミュニケーションについてインタビューを行い、その結果をまとめたものだ。縦軸を仕事の質、横軸をコストとし、ツール導入によって生まれる「よいサイクル」と「悪いサイクル」を可視化したという。

社内にツールを導入するためのコスト

タグチ氏:当初は「最強のCRMを作ろう」と意気込まれていたんです。しかし、こうして分析をしてみると、「よいサイクル」に入って社内が活性化するにはオペレーション(管理面)が重要で、ツールだけで完結する問題はほとんどない、ということがわかりました。この図が“たたき台”となって、ではどこを狙えばいいのか、という議論ができるようになったのです。必要とされている情報を1ヵ所にまとめた「全員参加型ディレクション」の一例として、参考にしていただければと思います。

全員が気持ちよくプロジェクトに臨めるように

最後に、タグチ氏は改めて「プロジェクトをデザインする」という考え方の重要性について語った。

タグチ氏:社会情勢や業界動向といった広い範囲から、制作背景やお客さまの状況、メンバーのリソースに至るまで、プロジェクトにはさまざまなコンテクストがあります。それらをきちんと捉えることが、プロジェクトをデザインすることに繋がると考えています。メンバー全員が気持ちよくプロジェクトに臨めるように、チームのUXを高める組織マネジメントを意識してもらえたらと思います。

セミナーは参加者の質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からピックアップして掲載する。

昨年転職し、現在は社内初のデザイナーとして働いています。「全員参加型ディレクション」という考え方にとても共感するのですが、開発メンバーが少なく、私自身も経験が不足しているため、十分な時間を割けるかどうか不安を感じています。もしタグチさんがこのような状況にいた場合、どのように課題に対応されますか。
まずは全体像を見る力を養いつつ、AIにも頼ります

私も最初の会社にいた頃は似たような状況でした。今でこそ「コンテクスト」という言葉で表せますが、当時から「今はこういう動きを求められている」と考える癖がついていたと思います。ですので、全員でディレクションをしなければと無理に捉えずに、まずは全体像を見る力を養ってみてはいかがでしょうか。時間がない……ということですが、私は資料作成をAIに手伝ってもらっているんです。かなり時短になりますし、チームに時間を割けるようにもなりますので、試してみてもらえたらと思います。
アプリ開発のデザイナーをやっています。リリースまでの期間が短く、スピーディーな開発が求められるときに、比重を置くとよい情報などはありますか。
いつでも立ち返れる場所を作っておきます

FigJamでもGoogleスプレッドシートでもよいので、困ったときに立ち返る場所を作っておくことかと思います。開発のスピードが速いと、どんどん設計や機能がアップデートされていきがちです。クライアントと合意を得たコンセプトや目指すゴールなど、「これだけは動かさない」というものを置いて、いつでも立ち返れる状態にすることを心がけています。

編集部より - セミナーを終えて

ディレクションはディレクターだけのものではない、という言葉は一見矛盾しているように見えるが、これは言いかえれば「プロジェクトはディレクター1人のものではない」ということだろう。セミナーでタグチ氏は「全員が立ち返れる」「みんなで議論する」など、「全員」「みんな」という表現を何度も繰り返した。組織そのものをいかにディレクションできるかが、結果的にプロジェクトの成否を左右するのだと感じた。

これからも、さまざまなゲストを招き、転職やキャリア形成を考えるうえで有益な情報をお送りする予定だ。ぜひ今後のセミナー内容にも期待してほしい。

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