セミナーレポート

Webデザイナー編
- ぶち当たったスキルの壁と
それを乗り越えて見えてきたキャリア

公開 

去る2022年12月21日(水)、オンラインセミナー「Webデザイナー編 - ぶち当たったスキルの壁とそれを乗り越えて見えてきたキャリア」が開催された。
デザイナーとしてキャリアを歩むなかで、壁にぶち当たる瞬間は誰にでもあるもの。人によって壁の厚さや高さはさまざまであり、乗り越え方も一つとは限らない。そこで今回は、株式会社あつまるでデザインリードを務める杉村美智子氏をゲストに迎え、キャリアの「壁」についてのセミナーを開催。杉村氏からは、デザイナーキャリアで感じた挫折と、それを乗り越えたストーリーが語られた。

講師プロフィール

杉村 美智子(MICHIKO SUGIMURA)
株式会社あつまる
クリエイティブグループ デザインリード
グラフィックデザインを学び、看板制作会社、印刷会社を経て、株式会社あつまるへ入社。クライアントのWebサイトやロゴ、印刷物、自社の広報ツールのデザインを行っている。
Web未経験から、これまで約600サイト以上の制作に携わってきた。
自社の広報では、「社内報アワード2022」でブロンズ賞を受賞。

挫折を経験し、上司や先輩がやることを徹底的に「パクった」

セミナーは杉村氏の自己紹介から始まった。職業訓練校でグラフィックを学んだ杉村氏は、看板制作会社を経て、印刷会社で4年ほど店内ポップやパッケージデザインなどに携わっていた。デザイナーとして最初に感じた挫折は、その印刷会社で初めて案件を任せてもらったときのことだという。

当時、和菓子のリーフレットを任された杉村氏は、何日もかけてデザインを作り、上司のデザインチェックを受けた。すると上司は、杉村氏が渡したデータからパーツを組み合わせ、ものの数分でデザインを再構築してしまった。「しかも、かっこいいデザインになっていたんです。それを見て、私はデザインが向いていないんだと落ち込んでしまって」と杉村氏は話す。

杉村氏:でも、悔しさのほうが勝ちました。デザインには向いていないかもしれないけど、やっぱり好きなことだし、得意なことだった。未熟なりにプライドがあったんですね。

それから杉村氏は、上司や先輩がやることを「徹底的にすぐパクる」ことにした。先輩の作業を後ろで見て、わからないことはすぐ質問する。Illustratorの使い方や、フォントの使い方、ショートカットなど、吸収できるものはすべて吸収しようとした。

図:印刷会社時代 TTSP 徹底的にすぐパクる

杉村氏:作業をスピードアップさせるために、とにかく量をこなしました。その甲斐もあって、デザイナー3年目でようやく上司のデザインチェックを一発で通過できたんです。ものすごく嬉しかったですね。

その後、杉村氏は現在の株式会社あつまるに入社。それまでは印刷物を中心に手がけており、Webデザインは未経験だった。ここからセミナーでは「Web未経験で結果を出すデザインを制作するために」と題し、杉村氏が取り組んだことについて語られた。

1つは「広告マーケティングの知識を身に付ける」。チラシなどの印刷物は、企業にとって広告の一部であり、作ってしまえば終わり。だが、Webは公開することが1つの着地点ではあるものの、それで終わりとはならない。コンテンツの更新やブラッシュアップの継続が必須だからだ。つまりWebは公開してからがある意味でスタートとも言える。そこで杉村氏は、改めて広告について学び直した。

杉村氏:ダイレクトレスポンスマーケティングといったマーケティングをはじめ、コピーライティングや行動心理学なども書籍やネットで勉強しました。前職では「広告とは」など考えたこともなかったのですが、勉強してみて、広告のデザインは「情報伝達」なのだとわかったんです。そこから、線や色、形などの要素を使って効率よく伝わるのがいいデザインなのだと考えるようになりましたね。

図:広告とは 広告デザインは情報伝達

あなたのデザインをレベルアップさせる3つの訓練

さらに杉村氏は「デザインのレベルアップ」にも取り組んだ。これには「戦略を考える訓練」「デザイン戦略の言語化」「デザインの引き出しを増やす」の3つがあるという。

まず「戦略を考える訓練」は、Webサイトやパンフレットなどを手書きで模写し、作り手の意図や戦略を見出すためのものだという。Webサイトに求めるものは業界ごとに異なるため、「業界のスタンダード」を知るためにも模写はおすすめだという。何を伝えたいのか、何を伝えるべきかという戦略を理解したうえで、デザインに取り組むことが大切だ。

図:戦略を考える訓練

次の「デザイン戦略の言語化」も、戦略を考えるために必要なもの。ユーザー視点、クライアント視点それぞれから、デザインの根拠を言葉で伝えられるようになるべきと杉村氏は話す。

杉村氏:デザインを言葉で説明できれば、ディレクターとのすり合わせもスムーズに進みます。デザインチェックをする立場になれば、なおさら言葉で伝える力が必要です。ただ、私も初めはまったく言葉にできませんでしたね。数パターン考えたあとに1つを選び、「なぜこれを選んだのか」を言葉にしてメモすることを繰り返しました。

言語化のコツは、「与える印象を構成している要素を分解する」こと。一つひとつの構成要素に着目し、「ここはなぜストライプなのか」「ここにシャドウが入っていなかったらどう見えるか」などを考えてみると、言葉で説明しやすくなるという。

図:デザインチェックをする立場はもっと言葉にしなければならない

最後の「デザインの引き出しを増やす」では、Pinterestやデザイン本などで、さまざまなデザインに触れることをすすめた。しかし一方で、杉村氏は「引き出しへのしまい方」も大切だと気づく。

杉村氏:たとえば、子ども向けのデザインにもさまざまなものがあります。落ち着いたトーンのものもあれば、色とりどりの派手なものもあるでしょう。「なぜこのデザインなのか?」を考えて、ターゲットや競合などの戦略が見えてから引き出しにしまえば、あとから「これを伝えたいときはこのデザインだ」と取り出しやすくなります。

図:その中で気づいたこと デザイン引き出しのしまい方が大切

私たちに「どんな未来が作れるか」。そこにデザイナーの価値がある

セミナーの終盤、杉村氏は「デザイナーとして使命を感じた仕事」について語った。その仕事は、CI策定から始まった、半年間の会社大変革プロジェクトであり、社名やロゴなどのクリエイティブをすべて一新するもの。杉村氏はメインデザイナーとして提案から関わり、フィロソフィーやWebサイト、新卒採用説明会の資料、封筒やペットボトルなどのグッズに至るまでデザインに関わった。

杉村氏:実際に、新卒採用説明会にも参加させてもらいました。その日は300名を越える学生が参加していて、私が作った資料を見ながらドキドキワクワクしているんだろうなぁ、嬉しいなぁと思えたんです。私たちがPCの前で地道に作っているデザインは、説明会に参加した学生だけでなく、社員や社員の家族、そしてその先の未来にまで繋がっていることを実感した日でした。

この経験を踏まえ、杉村氏は「私たちが作っているのはWebでもパンフレットでもない、お客様の未来」だと話す。

図:どんな未来が作れるか そこに価値がある

杉村氏:デザインはかわいいもの、かっこいいものを作って終わりではなく、「どんな未来が作れるか」に価値があるものだと考えています。これは、どの仕事でも共通していることでしょう。これから先、誰でもデザインができる時代が来るかもしれませんが、未来を作れるデザイナーこそが本当に価値がある存在だと思っています。

セミナーは参加者の質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からピックアップして掲載する。

言語化に自信がありません。なにかおすすめの方法はありますか?
カラーやフォントの解説文を読んでみては。
私も語彙力がなくて、最初はとても苦労しましたね……。なので、ここでも「徹底的にすぐパクる」です。たとえば色見本では、カラーの選び方について「こういう色はこうした印象を与えます」といった解説がされているので、その表現を自分なりの言葉にして吸収したりしました。フォントもコンセプトが文章で説明されているので、よく参照します。
Webデザインの構成を理解するために手書きを推奨されていましたが、アプリケーションでのトレースにもよさがあると思います。手書き・アプリケーションそれぞれのトレースについて考えを伺いたいです。
目的によって使い分けるのがいいと思います。
サイトの作りを理解したり、戦略を考えたりするときは、手書きでパパッと書くのがいいと思います。デザイン力をアップするためのトレースであれば、アプリでトレースすることもありますね。どちらが身に付きやすいかは人によるところもあるので、一度どちらもやってみるのがよいのではないかと思います。
ターゲットに合わせたデザインを作るうえで、心がけていることを教えてください。
ターゲットの「生活」からイメージするようにしています。
私の仕事は全国にお客様がいて、現地に行かないとわからないことが結構あるんです。東京では当たり前のように作られているデザインが、地方では受け入れられなかったりするんですね。その感覚をつかむために、インスタで「#○○県カフェ」みたいなハッシュタグを見て、この土地にはこういう背景があるんだな、と考えるようにしています。
たとえば、地域によっては夫婦のパワーバランスが違うこともあるので、住宅や車などのサイトでは作りを変えることもありますね。旦那さんに決定権があるならロジカルな言葉が多いサイトに、奥さんに決定権があるなら写真が多く感覚的なサイトにと、戦略も変わってきますから。

編集部より - セミナーを終えて

セミナーの冒頭、杉村氏は自身のもの作りの根底に「自分にしかできないことへのこだわり」があると話した。誰かを喜ばせたり、驚かせたりしたいという気持ちを、なにより大切にしているという杉村氏。そんな“思い”が原点にあるからこそ、Web未経験から広告やデザインのスキルを伸ばすことができたのだろう。「どんな未来が作れるかに価値がある」という言葉に、杉村氏がいかにデザインの可能性を信じているかも感じられた。

これからも、さまざまなゲストを招き、転職やキャリア形成を考えるうえで有益な情報をお送りする予定だ。ぜひ今後のセミナー内容にも期待してほしい。

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