セミナーレポート
UIデザインからユーザーリサーチまで
- キャリアチェンジの軌跡 -
公開 2025.3.4
2024年12月10日(火)、オンラインセミナー「UIデザインからユーザーリサーチまで - キャリアチェンジの軌跡 - 」が開催された。
デザイナーのキャリアについては数多い道筋があり、転職したいという意思があっても、次に何をすればいいのか悩むもの。そこで今回は、非デザイナーからUIデザイナーとして経験を積み、現在はデザイン組織でユーザーリサーチャーとして活躍する大倉慶子氏をゲストに迎え、そのキャリアの軌跡とデザイナーのキャリアアップについて語られた。
講師プロフィール
- 大倉 慶子(KEIKO OKURA)
- SPARCK ユーザーリサーチャー
- 東京都出身、現在イギリス・ロンドン在住。明治大学理工学部応用化学科を卒業後、The Glasgow School of ArtでDesign Innovation and Service Designを専攻し修了。学生時代にはアメリカへ交換留学を経験。新卒で専門商社に入社。その後、株式会社マイナビで新卒媒体営業や事業推進に従事。働きながら独学でデザインを学び、デザイナーとしてのキャリアに転向。アンカーデザイン株式会社にてサービスデザイナーとしての経験を積んだ後に、デザイン留学のために渡英。現在はイギリスのIT・テクノロジーコンサルティング会社BJSS内のデザイン組織、SPARCK にてユーザーリサーチャーとして活動。民間企業から政府案件に至るまで、幅広いプロジェクトを担当。
就職活動で大事にしたい3つの軸
大倉氏は新卒で専門商社に入社し、法人営業などの業務に携わったあと、キャリアチェンジを志すようになったという。
大倉氏:営業を通じて、顧客が抱える本質的な課題を見出すことに面白みを感じるようになり、もっと課題解決に携われる仕事をしたいと考えるようになりました。また、過去にアメリカ留学をしていたので、また海外に戻りたいなという思いもあったんです。この2つを満たす仕事として、デザイン系の仕事がよいのではと考えました。
まず大倉氏は、独学でデザインの勉強を始めた。YouTubeや書籍などのほか、オンラインコースでUI/UXデザインの勉強を半年間続けたという。そのうえで、就職活動をする前にキャリアの棚卸しを行った。このとき、「やりたいこと」「できること」「求められること」の3つの軸を中心に考えたという。
大倉氏の「やりたいこと」は、海外でも通用するデザイナーになること。そして、それが可能なスキルが得られる会社で働くこと。「できること」には、営業や英語といった過去の経験や、人への興味や観察力といったヒューマンスキルを挙げた。「求められること」については、この時点ではデザイン業務の経験がないので、継続して学び続けられるスキルや、お客さまやユーザーとの折衝など、「できること」から求められそうなことを考えたと話す。
大倉氏:この3つが満たされる環境で働くことは、会社と自分の双方にとって有益です。就職や転職を考えられている方は、この3つの軸を考えることをおすすめします。
ただ、デザインの実務経験がない状態で他の候補者と戦うには、自分にしかない強みを打ち出す必要がある。大倉氏が「できること」で挙げた営業経験や英語は、他の候補者との差別化を意識したものでもあった。さらに、海外のオンラインコースでUI/UXデザインを学んだことも、「最先端のデザイン事情を知っている」という強みに繋がると考えた。
こうした入念な準備の結果、大倉氏は3社から内定を獲得し、2020年にアンカーデザイン株式会社に入社。サービスデザイナーとして、リサーチやデザインに携わることになる。
デザイン留学を経てイギリスの企業に就職
セミナーでは、アンカーデザイン入社後に携わったプロジェクト事例や、その後のデザイン留学、イギリスでの就職活動についても語られた。
アンカーデザインでは、サービスデザイナーとしてリサーチやプロトタイピングなどに関わるほか、営業やPR、プロジェクトマネジメントなど幅広く業務を経験したという。「金融会社のFAQサイト改善」や「製薬会社の新薬開発の業務効率化」といった企業の課題解決のほか、「日本科学未来館の顧客体験デザイン」にも携わった。いずれもインタビューや観察から現状を把握して、プロトタイピングやワークショップなどで課題解決の糸口をつかみ、成果物へと繋げていった。
アンカーデザインで1年半働いたあと、大倉氏は2021年9月にグラスゴー芸術大学に“デザイン留学”をする。将来的に海外での就職を目指しており、キャリアを強化するために選んだ道だった。
大倉氏:大学では、環境問題や難民のキャリアなど、社会問題をテーマにしたサービスデザインを行っていました。留学したことで、これまで日本語環境で培ったスキルを英語でも使えるようになり、ヨーロッパでも通用する専門性を身に付けられたと感じます。また、学歴を得ることで海外就職がしやすくなること、2年間の卒業ビザが得られることも、留学のメリットでした。
イギリスでの就職活動にあたり、大倉氏は再びその軸を考えたという。前職での経験を踏まえて「もっと大きなチームで働く経験をしたい」「自分の強みを作りたい」という軸が生まれ、さらに「英語で働く経験をしたい」「行政関連の案件に関わりたい」という軸を加えた。
2023年3月、大倉氏はロンドンのデザイン&テックコンサルであるSPARCK社に入社。デザインチームの人員は「サービスデザイナー」「ユーザーリサーチャー」「プロダクトデザイナー」「コンテンツデザイナー」の4つの役割に分かれており、大倉氏はユーザーリサーチャーとして案件に携わっている。
行政関係の案件に必要な「アクセシビリティ」の考え方
大倉氏は現在、イギリス政府の案件に携わっているという。就職活動の軸の1つ「行政関係の案件」が叶った形だ。
大倉氏:利益を追求する企業の案件とは違い、行政の案件は業務効率化や経費削減をしつつ、国民によいユーザー体験を提供することが主な目的になります。イギリスの全国民が使うシステムですので、アクセシビリティを重視することも特徴の1つです。
セミナーの終盤は、アクセシビリティの考え方について語られた。アクセシビリティには、生まれつきの障害といった恒久的なもの、怪我や手術などによる一時的なもの、自然環境やIT環境などによる状況的なもの、という3つのニーズがあるという。これを踏まえ、大倉氏はアクセシビリティを考慮すべき理由について語った。
大倉氏:イギリスでは19パーセント、日本では7.4パーセントの人が何らかの障害を持っており、「恒久的」なニーズを抱えているとされています。これに「一時的」「状況的」なニーズを加えれば、もっと多くの人にアクセシビリティが必要になるでしょう。さらに、ニーズとは関係なく、私たちは誰もが使い心地のよいサービスを使う権利があります。読みやすい・わかりやすいサービスは、どんな人にもメリットをもたらすはずです。
では、誰もが使いやすいサービスを作るために、どのようなことを考える必要があるのだろうか。ここで大倉氏は「POUR(ポアー)の法則」を紹介した。
POURとは、Perception(感知できる)、Operable(操作できる)、Understandable(理解できる)、Robust(頑丈である)の頭文字を取ったもの。視覚や聴覚、操作性、わかりやすい表現などを意識することで、アクセシビリティに配慮したサービスを作ることができるという。
最後に、大倉氏は転職活動で使ったポートフォリオと、「MATCHBOX」のサービスについて触れた。
大倉氏:転職活動をしていたとき、履歴書やポートフォリオを人に見てもらってブラッシュアップすることで、目に見えて通過率が上がったんです。自分が見せたい情報と、企業が知りたい情報は違うのだと実感しました。そういう意味では、企業に見せることに特化した「MATCHBOX」のようなサービスは、とても有用だと思います。オファー機能を使って、自分の「軸」に合う企業に応募してみるのもいいですね。
セミナーは参加者の質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。
- デザイン業務の経験がない中で、どういったポートフォリオを作ったのでしょうか。どんな点を訴求したのか知りたいです。
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自分でプロジェクトを作りました。
自分で仮のプロジェクトを設け、すべてのデザインプロセスを見せるようなポートフォリオを作りました。植物を育てるアプリを考えて、インタビューをしたりペルソナを作ったりしましたね。サービスデザインでは、どういったプロセスで仕事をしているのか見せることが大事だったりするんです。個人のプロジェクトでも、苦労したところや頑張ったところをハイライトして書くとよいと思います。 - デザイン留学をされてよかったと思うことを教えてください。
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学びだけでなく横の繋がりも。
サービスデザインとはどういうものか、学術的に学べたところですね。海外で働くとどうしても「異国の人」という見られ方になってしまうので、勉強したことを学歴で証明できるのはよかったと思います。あとは、クラスメイトとの横の繋がりができたこと。これは今も生きているので、ネットワーク作りという意味でもプラスになりましたね。 - キャリアチェンジに悩んでいます。人と話すことが苦手なのですが、サービスデザイナー、ユーザーリサーチャー、プロダクトデザイナー、コンテンツデザイナーのそれぞれで、どの場面で社内やクライアントと話す部分がありますか?
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プロダクトデザイナーやコンテンツデザイナー向きかもしれません。
サービスデザイナーはクライアントやプロジェクトマネージャー、エンジニアチームなどと会話をしてバランスを取っていく仕事なので、社内外で話す場面が多いですね。ユーザーリサーチャーは、ユーザーに1時間くらいインタビューをするので、コミュニケーションはかなり必要になると思います。
一方、プロダクトデザイナーやコンテンツデザイナーは、プロジェクトにもよりますが、デザインチームやプロジェクトマネージャーと話すのがメインなので、そこまで社外と会話をする印象はないですね。実際に手を動かして物を作るとか、それぞれの職務に求められる細かい作業が得意、文章が得意、ニーズのビジュアル化が得意などであれば目指すのもよいかもしれません。
編集部より - セミナーを終えて
営業経験で感じた面白さを起点に、海外でデザイン職に就いた大倉氏。その遍歴が語られたセミナーでは、自己分析の末にデザイン職を目指したこと、自分の強みを見極めて転職活動をしたこと、海外就労を目指して留学したことなど、戦略的にキャリアを描いてきた様子が伺えた。キーワードとなるのは「軸」だろう。自分の中にあるぶれない軸こそが、キャリアを選ぶ指針となるのだと感じた。
これからも、さまざまなゲストを招き、転職やキャリア形成を考えるうえで有益な情報をお送りする予定だ。ぜひ今後のセミナー内容にも期待してほしい。