セミナーレポート

幅広い経験が生んだデザインのアプローチ
- キャリアの変遷から学んだ課題解決の手法

公開 

去る2023年2月22日(水)、オンラインセミナー「幅広い経験が生んだデザインのアプローチ - キャリアの変遷から学んだ課題解決の手法」が開催された。

デザイナーのキャリアは選択肢がたくさんあり、転職をしようと考えても「次は何をしたらよいのか」と悩まれている方も多いはずだ。そこで今回は、株式会社ROUTE06 プロフェッショナルサービス本部の熊野亜由美氏と菅原直也氏をゲストに迎え、デザイナーのキャリア変遷に関するセミナーを開催。フロントエンドやディレクターの経験も持つお二人が、その経験を実務にどのように生かして課題を解決してきたかが語られた。

講師プロフィール

熊野 亜由美(AYUMI KUMANO)
株式会社ROUTE06 プロフェッショナルサービス本部
デザインマネージャー
八戸工業高等専門学校専攻科 物質工学専攻を卒業後、旭化成せんい株式会社 商品科学研究所にてスポーツ・インナーアパレル向けの商品開発・特許業務など担当。
ウェブ制作会社でデザイナーに転向後、フリーランス、株式会社スマービー、株式会社ストライプデパートメントでデザイナーを経験。2020年7月、株式会社ROUTE06に入社。
菅原 直也(NAOYA SUGAWARA)
株式会社ROUTE06 プロフェッショナルサービス本部
デザイナー
桑沢デザイン研究所でプロダクトデザインを専攻。
株式会社ロフトワーク、株式会社グッドパッチ、株式会社パーティでデザイナー・Webディレクションを経験。2021年1月、株式会社ROUTE06に入社。

モチベーション曲線からキャリアの変遷を考察する

セミナーの前半は、両氏のキャリア変遷と、それに伴うモチベーションの上下を「モチベーション曲線」として振り返るところから始まった。

まず、菅原氏のキャリアはディレクターからスタートし、1社目ではソーシャルゲームのイラストディレクションや、官公庁のCMSリニューアルなど、さまざまな案件に携わったという。その後、アプリのUIデザインに携わりたいという思いから転職を決意し、デザイナーとして2社目にジョイン。3社目ではアプリ以外にWebサイトなどのデザインも手がけ、4社目となる現在はROUTE6でB2BサービスのロゴやLP実装に携わっている。

菅原氏 モチベーション曲線

菅原氏は自身のモチベーション曲線を振り返り、「できることが増えてきたとき」や「自分が携わった案件がリリースされたとき」にモチベーションが上がったと分析する。反対に、「やりたいことができないとき」「人間関係など案件以外のことで消耗したとき」にモチベーションが下がり、転職に繋がっていると話した。

菅原氏:ヒト(人間関係や心理的安全性)、コト(案件)、モノ(給与など)のどれかに不満を感じるとき、モチベーションが下がってしまう。逆に言えば、自分の中でこの3つのバランスが取れている状態であれば、モチベーション高く仕事に臨めるはず。ヒト・コト・モノの何が大事なのかはそのときどきで変わるので、モチベーションが下がったときはどこに不満があるのかを考えてみると、解決できることもあるのではと思います。

一方、熊野氏のキャリアは高専卒業後、旭化成せんい株式会社での商品開発から始まった。繊維の研究や開発資料の作成でAdobe製品を触った経験から、デザインの分野に興味を持ち、未経験からWebデザイナーにキャリアチェンジする。フリーランスの期間も挟みながらスキルを磨き、現在はROUTE6でデザインマネージャーを務める。

熊野氏 モチベーション曲線

熊野氏のモチベーション曲線は、ライフステージの変化に合わせて大きく上下している。熊野氏は「人生の折り返し地点で受けるストレス負荷は想像以上だった」と話す。

熊野氏:育児中など仕事を優先できない時期は、社会から孤立したような気持ちになり、内省的になる時間も増えてしまいました。ただ、そこで諦めず、自分自身がどういう状態なら幸せなのかを振り返り、そこに近づけるよう行動するようにしました。私の場合は、家庭や仕事以外のコミュニティに属したことで、ストレスを分散でき、結果的に仕事を増やすことにも繋がりました。

デザインモデルからキャリアを考える

セミナーの後半は、菅原氏・熊野氏それぞれから、自身のキャリア変遷を踏まえたアドバイスが「ケーススタディ」として語られた。

菅原氏は、デザイナーとしてのキャリアを考えるうえで、「デザインの5段階モデル」を意識しているという。5段階モデルでは、まず製品の目的や利用者のニーズに沿った「戦略」がベースにあり、その上にコンテンツや機能といった「要件」が存在する。要件を整理したうえで、情報デザインとなる「構造」、インタラクションとなる「骨格」、ビジュアルデザインである「表層」とレイヤーを重ね、デザインは完成されていく。

デザインの5段階モデル

菅原氏が意識しているのは「自分は今どの階層にいるか?」だ。ディレクター時代は「戦略」「要件」に携わり、デザイナーとしてキャリアを重ねるにつれて「構造」「骨格」「表層」と段階を踏んできた。どの階層に軸足を置くかで、キャリアビジョンも変わってくると話す。

菅原氏:たとえば「表層」でビジュアルデザインに携わっている方が、一足飛びに「戦略」に関わろうと思っても、中間層の経験がないとなかなか難しいのではと思います。キャリアを考えるときは、今どの階層にいるのかを踏まえ、そこから一層ずつ領域を変えていくことを意識すると、スムーズに進むのではないでしょうか。

また、自分の立ち位置を考えるには、「ソフトウェアデザインの3つのモデル」も役立つと話す。ソフトウェアデザインは、システムが実際に動く仕組みである「実装モデル」、システムの動きをユーザーに表現する「表現モデル」、システムをユーザーがどう理解しているか示す「メンタルモデル」の3つのモデルに分かれるという考え方だ。

ソフトウェアデザインの3つのモデル

ユーザー体験を司るUXデザインは「メンタルモデル」に、実装とユーザーを繋ぐUIデザインは「表現モデル」に位置する。エンジニア寄りの知識を持つUIデザイナーは、表現モデルの中でも「実装モデル」に近い立ち位置になるだろう。自分はどのモデルを担当したいのか、どこに軸足を置いているのかを考えることで、自己理解が深まると菅原氏は語る。

菅原氏:デザインについてのフレームワークやモデルは、先人たちがたくさん作ってくれています。先人たちが作ってくれた仕組みを元に、自分の強みや方向性を分析してみるのも、キャリアを考える1つの手段として有効なのではないかと思っています。

ネガティブな感情をエネルギーに変えて

熊野氏は、自身のキャリア変遷で取り組んだ課題と、その解決策について語った。
熊野氏は落ち込んだモチベーションを引き上げるために、好奇心を刺激するイベントやコミュニティを探すというアプローチを取った。「孤独とコミュニティ」と題された下記のスライドには、コミュニティや興味の範囲がどのように広がっていったかが示されている。左上のRubyを入口に、まるで数珠繋ぎのように関連する言語やフレームワークに興味を持ち、それぞれのコミュニティに積極的に参加するようになった。

熊野氏:いろいろなことに手を出しているうちに、孤独を感じなくなってきましたね。私の場合、家でじっとしているよりも、なにかしら動いていることが癒やしになっていたのだと思います。

孤独とコミュニティ

前半のモチベーション曲線では、「2人目の保育園が決まらない」という焦りと怒りが、モチベーション低下の大きな原因になった。ネガティブな感情である「怒り」だが、熊野氏は「どんなことに怒りやモヤモヤを感じたのかを振り返ることが、キャリア選択の役に立つ」と話し、これを「怒り駆動」と名付けた。

熊野氏:怒りやモヤモヤは、そのとき直面した課題と結びついています。その課題を解決する取り組みをしている企業や業界を探すことが、視野を広げるきっかけとなったのです。2社目で子ども服のアパレル関連の仕事に挑戦できたのも、「子どもといるとゆっくり買い物ができない」という課題意識から。怒りを無理に打ち消さず、しっかり受け止めることで、次の道に繋がることもあると思っています。

怒り駆動

これまでの話を振り返り、熊野氏は「『しんどい』『やったことがない』を見つけたらチャンス」だと話す。孤独や怒りをそのまま放置せず、視野を広げる機会にしたり、仕事を楽しむきっかけにしてきたことで、今の自分があるからだ。

熊野氏:「言われたからやる」というスタンスでは、仕事は面白くないじゃないですか。私はフリーランス時代にいろいろ手を出しすぎたせいで、自分がデザイナーなのかフロンエンドエンジニアなのかマークアップエンジニアなのかわからなくなることがあるんです(笑)。でも、分野を越境することで培った経験はまったく無駄になっていません。何事も当事者意識を持って取り組んだほうが、多くのものが得られると思っています。

セミナーの最後は質疑応答で締めくくられた。

熊野さんは未経験からWebデザイナーになられたそうですが、Webデザイナーになるために独学で勉強をしたり、何か技術を身に付けたりしたのでしょうか。
入社してから育ててもらいました。
熊野氏:当時、デザインは本当に趣味程度で、サイトを立ち上げた経験もない状態でした。面接でも「本当に未経験です」と話したくらいです(笑)。内定をもらったあと、社長からは「世の中を見てきてほしい」と言われました。目に映る景色が、なぜそう成り立っているのか観察してほしいと。たとえば看板を見かけたら、なぜその書体や色なのか、なぜその余白やカーニングなのかを考えてみる。この視点は今でも忘れていないですね。
菅原氏:私も自分の中で勝手に師匠だと思っている方がいて、その人を真似てみたりします。本で勉強するのと、実際にその人が作業をする様子を見せてもらうのでは、やはり情報量が違いますから。師匠やメンターとなる方を決めるのは、やはりスキルアップにもよいのかもしないですね。

編集部より - セミナーを終えて

菅原氏と熊野氏の両氏は、共にデザイナーではない職種からキャリアをスタートし、複数社の経験を経て今に至っている。キャリアの波をいくつも経験してきたからこそ、その言葉には説得力があった。転職の決め手や、困難に直面したときのメンタルの保ち方、自分の立ち位置を確認する方法など有用なアドバイスも多く、特に熊野氏の「『しんどい』『やったことがない』を見つけたらチャンス」という言葉は、響いた人も多いのではないだろうか。

これからも、さまざまなゲストを招き、転職やキャリア形成を考えるうえで有益な情報をお送りする予定だ。ぜひ今後のセミナーにも期待してほしい。

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